BOPビジネス 市場共創の戦略
BOPビジネス。聞いたことはありましたが、詳しくは知りませんでした。
一日2ドル以下で生活する人が世界に40億人。ピラミッドの底辺の貧困層(BOP Base of the Pyramid)をターゲットとするビジネス。
日本の企業が東南アジア向けに機能を落として低価格の商品を売り込む話とかを聞くことはありました。しかし、ここで書かれている内容は、新しいことばかりでした。
CK・プラハラードが「ネクスト・マーケット」で書いた頃に比べてアプローチはどんどん変わっているのでした。
「まえがき」にある次の文がその変化を良く表しています。
「単にピラミッドの底辺『において』富を得る機会を探る」のではなく、「ピラミッドの底辺の人々の『ために』、彼らと『ともに』富を築く」
Amazonの内容紹介の欄には「事業設計、パイロット試験から規模の拡大まで、BOPビジネスで本当に成功するためのノウハウを、第一線で活躍する研究者・起業家8人が提示する!」とあり、まさにその通りなのですが、正直なところ読み始めの頃は「良い儲け話がありますがどうですか?」と誘われているようで、警戒しながら読んでいました。
各章がそれぞれ異なった専門家が書いているのですが、内容も書き方もそれぞれ異なるので、読者によって面白いと思う章は異なるでしょう。
私が好きなのは第3章と第6章です。
「緑の飛躍戦略」と題された第3章では、環境問題について書かれています。
先進国だと新しい仕組みを入れようとすると既存の利害関係者から大きな反対を受ける。BOPの市場ではそれが無いので、新しいアプローチを導入し易い。そこで上手く行けば、今度は大手を振ってそれを先進国市場に持ち込める。
ここで言及されていた「ハーバードビジネスレビュー」のゼネラルエレクトリックの記事も読みました(「How GE is Disrupting Itself」(HBR Oct. 2009 page 56-65))が、こちらもとても面白かったです。
それまでのglocalizationとは全く逆のreverse innovation というアプローチです。先進国市場の成長が期待できない時にインドや中国でそれをやらなければ、やがてインドや中国の企業にそのBOP市場を抑えられてしまう。「If GE’s businesses are to survive and prosper in the enxt decade, they must become as adept at reverse innovation as they are at glocalization. Success in developing countries is a prerequisite for continued vitality in developed ones.」
あのGEが既に2009年にこのように危機感を持ってBOP市場に取り組んでいる中、日本の企業はどのように考えているのでしょうかね。
もう一つは第6章。
インドのBOP市場で成功した冷蔵庫の名前が「チョトクール」という名前でそれがヒンディー語で「少し冷たい」という意味だというのが本当かいなと面白かったというのもありますが。
iPhoneとチョトクール。ピラミッドの先端と底辺のそれぞれの市場で成功した商品が、実はどちらも戦略的デザインの原則を用いたイノベーションである。
「あらゆるものを精算する方法についての知識は「増加」しているのに、ユーザーの日常生活に対する知識は「減少」しているというずれ」(イノベーションギャップ)を、「問題をそのまま受け取らずに、ユーザーについての洞察を使ってリフレームする」ことで埋めていく。
最近 Steve Jobs関連本を何冊か読んでいたので、イノベーションは先進国の天才からしか生まれないと思い込んでいたので新鮮でした。
グラミンバンクのマイクロファイナンスの話は知っていましたが、お金を貸すだけでは不十分で、BOPの人たちが参加できるビジネスを供給できなければお金も生きてきません。
「ネクスト・マーケット」の著者CKプラハラードによる「大いなる展望」と題された章には、次のように書かれています。
「BOPが市場であるか、そうではないかは時間が教えてくれるだろう。私はそうだと考えている」
私もそうだと思いたいです。40億人の市場が出来上がり、40億人が豊かになり、そこでのイノベーションにより先進国市場も恩恵を受ける。 そんな素晴らしい未来がやってきます。
BoPビジネス戦略 ―新興国・途上国市場で何が起こっているか
BoP(Base of the Economic Pyramid)。年間所得3000ドル未満の世帯を指し、世界に約40億人存在する。本書はそのBoP層へのビジネス戦略を先行事例を基に体系的に解説している。取り上げられている事例は既に他書や記事で既知のものが多いが、現時点で本書ほど体系的かつコンパクトに低所得層へのビジネス・アプローチをまとめているものはないのではないだろうか。
BoP層が大半を占める新興国や途上国では、社会インフラはなく、企業やブランドの認知もゼロ、教育の遅れ、貧困、現地環境への影響、NGOなどのステークホルダーの考慮など、様々な課題をトータルかつロングタームで考え、継続性のあるビジネスを構築する必要がある。しかし、先進国での需要拡大が見込めない中、40億人というポテンシャルを持ち、やがて、10年後には、5〜10億人の所得中間層へのシフトが見込まれる市場である。また、ここで開発されたビジネス・モデルを先進国へ逆展開するリバース・イノベーションという戦略もとり得る。こうした観点から、事例として取り上げられている欧米企業や韓国企業はいち早くBoPビジネスに着手し、新興国での高い売上率を既に確保している。
本書の中でとりわけ参考になると思ったのは、第2章の最終節で語られているチェックリストである。BoPビジネスに成功するためのノウハウが簡潔にまとめられている。
・現地の社会問題(MDGsで定義されている8つのグロバール・イシューなど)を解決する性能・品質を備えていること
・デザイン面では、直感で理解できること、現地生産保守ができること、現地に適正な技術レベルであること
・現地で受け入れられ、現地サプライヤーの利益が確保でき、継続性を維持できる価格設定であること
・先進国での考え方をゼロにして、現地のニーズを徹底的に理解すること
・現地やステークホルダーへ収益機会の提供、権限委譲、技術移転をし、現地の発展をともにすること
・現地で信頼されている人材の活用、バリューチェーンを補完できる組織とのパートナーシップ、現地人材の能力向上などを考慮すること
本書の中では、「Japan」ブランドが途上国で健在であるこの5年が、出遅れた日本企業にとって勝負の時期であると語られている。
クラウドの衝撃――IT史上最大の創造的破壊が始まった
クラウドを解説する本の中では一番よくまとまっていると感じた。実際、ランキングを見るとクラウド関連の本の中では一番よく売れているようだ。他の本がほとんど文章だけであるのに対し、この本は図表やデータが多いため、非常に分かりやすく、説得力がある。
また、情報の網羅性も群を抜いている。クラウドの活用やクラウド・ビジネスへの参入を計画するにあたって、気になる点は一通り網羅されており、リファレンスとしても利用できる。
情報が若干古いといって評価を下げているレビューもあるが、情報の鮮度はWebに求めるべきで、書籍にそれを求めるのは違うように思う。
なにより、ユーザー企業のクラウド活用に向けたフレームワークやクラウドがIT業界に及ぼすインパクト、将来に向けた課題などがデータや具体例とともにわかりやすく整理・分析されており、ユーザー企業、ベンダーの立場に関わらず、ITに関わる人なら読んでおいて損はない。
クラウドの負の面にも触れられており、過度にブームを煽ることなく、中立的な立場から書かれている点でも本書の信頼性は高い。
ニコラス・カーの「クラウド化する世界」で大局観をつかみ、本書で詳細を把握すれば、クラウドに関して重要なポイントは一通り押さえることができるのではないだろうか。