ウタリア戦記閃光のアーシュラ
本書は、アイヌの歴史に題材をとった、歴史ファンタジーである。
アイヌ民族の叛乱を扱ったフィクションとしては、船戸与一の小説「蝦夷地別件」が想起されるが、本作は、あまり肩の凝らない創作を心掛けたように見える。そのためか、全体に甘いトーンが感じられ、物語処理に安易さが認められる。(カムイモシリにおける通過儀礼のくだりなど、あまりに常套的である)本格的な大河ロマンを求めると肩透かしを喰うだろう。
物語は「邪倭羅国」の侵略を受けた「ウタリア国」の人々が、王女アーシュラのもとに結集し、これを撃退するというもの。蝗の鎧を纏った邪倭羅国の兵士達は蝗軍(コウグン)と呼ばれ、「焼き尽くし、奪い尽くし、殺し尽くす」云々といった記述から著者が何を暗示しているか、おおよそ窺い知れるだろう。
後段、この蝗軍兵士達が「社畜」ならぬ「戦畜」として、酷使された人々であることが明らかにされ、主人公達は大きく戸惑う。これは「戦争とは兵士達を大量死に送り込むことである」という、ヴェーユ的な反戦論に通底している。
ラストは石川淳の小説を思わせるもので、安易な気もするが、一方でこれからも過酷な歴史が続いていくことが暗に示されている。神々と人々の幸福な調和は終焉を迎え、主人公達は否応なしに歴史の激動の波に投げ出されるのである。
尚、中盤にウタリアの部族同士における深刻な確執が描かれるが、この辺りはもう少し書き込みが欲しかった。ここは短い場面だが本作のテーマ的な要となっているので、駆け足気味に、主人公の涙で誤魔化した感があるのには不満が残った。